【猫説】今昔物語

猫が織りなす不思議な世界の物語

【猫説 今昔物語】虞や 虞や なんじをいかんせん

今となってはもう昔のことになってしまったので,それが本当のことなのかどうか知っているものはおりません。また,どこの国のお話かわかりません。ある人がいうには,遠く海の向こうというものもあれば,この国のことというものもあります。しかし,どこの国のお話であれ,これを伝えるものがあるというのはきっとほんとうのことだからでしょう。

かつて,猫羽という勇猛果敢な帝王がおったそうな。それはそれは強い王で,一人で何千何万もの兵を相手に一歩も引かなかったとか,一人で巨大な城を打ち破ったとか,はたまた龍の翼にのって戦場に舞い降りたとか,話の種の尽きないかただったそうな。

そんな王でも,やがて終わりのときがやってくるもの。驕れるものも久しからずともいうものもある。猫羽を打ち破らんとしたのは,積年の相手でもある猫邦というこれもまた龍の子という噂のある歴戦の王。もはやこれまでかと観念した猫羽は,いついかなるときもそばに置いて離さなかった猫虞に舞わせ,それに合わせて辞世の句を詠んだそうな。

力は山を抜き気は世を蓋う
時に利あらず騅ゆかず
騅のゆかざるをいかにすべき
虞や虞やなんじをいかにせん

それを聞いた猫羽軍の皆で泣かないものはなかったそうな。

一方,猫邦軍の皆で笑わないものはなかったそうな。猫邦は,わしには猫何,猫良,猫信という各分野において神にも等しいものたちをそれぞれ存分に働かせることができたから,猫羽をついに打ち破ることができたのだ。わしの力は砂山すら動かすこともできない,時が向いたことなど一度もなく,馬なぞましては乗れない。妻はいつも死線をさまよわせてばかり。しかし,わしは勝った。猫羽よ,ほかのせいにしていては何度蘇っても,わしには勝てんぞ。

【猫説 今昔物語】まず茶虎より始めよ

今となってはもう昔のことになってしまったので,それが本当のことなのかどうか知っているものはおりません。しかも,それが遠くの国のことであるのだから,なおさらです。

かつて,黒猫の国と白猫の国というとても仲の悪い国があったそうです。商業の盛んな黒猫の国は,その財力にものをいわせて,いつも白猫の国をいじめていました。いつもいつもいじめられていた白猫の国の王はどうにかして仕返しできないものか考えておりました。

「そうだ。優秀な武将がいれば,きっと黒猫たちをこらしめてくれるにちがいない。だれか,ここに五百金あるから,優秀な武将を探してまいれ」

しかし,待てど暮らせど優秀な武将は現れませんでした。黒猫の国は待っていてはくれません。どんどんいじめがひどくなってきて,とうとう白猫の国の面積はほとんどなくなってしまったのです。

そんなある日のこと,王のもとに,一匹の茶虎がやってきました。茶虎が言うには,かつて黒猫の国に自分の故郷が占領されてしまったので仕返しがしたいのだが,仕返しができるのは白猫の国しかない,とのこと。そんな茶虎に白猫の王は優しく語りかけました。

「茶虎よ。そなたの思いはよくわかる。しかし,この状況を見なさい。我々にはそのような力はもう残ってはいないのだ」

すると,茶虎がすっと背筋を伸ばし,話を始めました。

「あるところに新鮮なお魚を手に入れたくて仕方のない大金持ちがおりました。大金持ちは,新鮮なお魚を持ってきたものには千金をくれてやろう。しかし,新鮮ではないお魚を持ってきたものには鉄拳をくれてやろう。皆恐れて,新鮮なお魚を持っているものでも,持っていこうとはしませんでした。その噂を聞きつけたある猫が一計を案じ,皆が持っていくことができない間にすっかり悪くなってしまったお魚をもって,大金持ちのところに行きました。大金持ちは悪いお魚を持ってきた猫に鉄拳をくらわそうと,こぶしを振り上げたとき,猫はこういいました。この悪いお魚を五百金で買いなさい。そうれば,きっとあなたのもとには新鮮なお魚が毎日のようにたくさんやってきますよ,と。あまりにも自信満々に言われるものだから,大金持ちは試しに五百金でその悪いお魚を買ってみました。すると,どうでしょう。悪い魚でも五百金で買ってくれるなら,とれたてならきっと鉄拳ではなく千金くれるはずだということで,方々から新鮮なお魚が集まったそうです。

つまりは,まず,この茶虎を師と敬って五百金で雇ってください。そうすれば,黒猫の国にいじめられていた様々な国の優秀な武将や政治家たちがこの白猫の国に集まってくるでしょう。まず茶虎より始めよ,です」

言われた通り,白猫の王は茶虎を師と仰ぎ,黒猫の国に仕返しするための方策を考えました。しかし,いつまで経っても,白猫の国には優秀なものたちは集まってきませんでした。茶虎のようなものの話に騙されてしまうような王なのだから,きっと我々が行ったところで,どうにもなるまいと言われているそうです。

これはきっと本当の話なのだろう。いつの世にも口の上手なやつがいるものだから,どんなにつらい状況でもだまされないように気をしっかり持たないといけないということです。

【猫説 今昔物語】猫壱と猫丸 その1

今となってはもう昔のことになってしまったので,それが本当のことなのかどうか知っているものはおりません。ただ,これは本人から直接聞いた話でもあるので,本当のことなのかもしれません。

何某の村にとても良質な温泉がわく宿がありました。その宿が多くのお客でにぎわっているのは良質な温泉がわくだけでなく,猫壱という噺家が毎日お客の前で何かの話をするからでもありました。

猫壱のする話は面白く,一度聞き始めたら,話が終わるまで何刻でも聞き入ってしまうほどでした。あるときなど,猫壱が話をするうちにどんどん調子に乗ってきてしまって,話し始めたのが夕刻だったのに終わったときには一番鶏が鳴いていたなんてこともあったくらいです。ただ猫壱が人気なのは話が面白いからだけではなかったそうです。どんな重い病でも,猫壱の話を何度か聞くうちにすっかりよくなってしまうのです。湯治も効かないのに,猫壱で治ったなどという話が瞬く間に付近一帯に広まり,多くの客でにぎわったそうです。

また,この地域には古くから万病に効くといわれた何某の神が一柱祀られておりました。この神も病を治すという神通力をもっておりましたが,猫壱の噂が広まるにつれて,少しずつ詣でるものも減っていってしまったそうです。変に思った神が様子を見にお客の姿になりすまして,宿に行ってみました。

神がお客に混じっていることも知らずに猫壱の話は今日も絶好調で,お客はみな上機嫌になり,中にはまるで神を拝むように猫壱を拝むものまで出る始末です。皆口々に,頭のケガが治った,腰痛がすっかりよくなった,子供のおねしょがなくなったなどと,猫壱に感謝のことばをかけていきました。今まで神である自分にかけてこられたことばたちがすべて猫壱にかけてられていく様子を見ても,神は何とも思いませんでした。そのくらいに,猫壱の話が面白かったのです。神はさっそく社に戻り,なかまの神々に宿で見た猫壱の話をして聞かせました。

すると,話を聞いたほかの神々まで,お客の姿になって,猫壱の話を聞きに行くようになってしまい,この地域一帯をお守りする神がすべていなくなり,温泉宿に集まってしまったのです。その状態に怒ったのが,それらの地域の神をまとめる天の神でした。

そこで,ある日,猫壱がいつものように話を終えた瞬間に,天に召し上げてしまったのです。その様子を見た,客たちは驚くとともに,きっとあまりの猫壱の話の面白さに天の神さまが話を聞きたいと独り占めしてしまったに違いないと思いました。

しかし,猫壱のいなくなった温泉宿では,万病に効く温泉の効果もなくなり,少しずつ客足が遠のいてしまったのです。これではあまりにもかわいそうなので,その宿にわく温泉にだけ,特別な力を神はお与えになりました。それが,今に伝わる何某の湯です。

さて,神隠しにあった猫壱はどうしたかというと,何年も経てば噂も絶え,今ではほとんど知るものはいなくなってしまったそうです。だから,この話も宿にすむものの中でも最年長のものが,子供のころに宿の最年長のものから聞いた話として伝わったものです。

 

「という話なんだけど,ねぇねぇ面白いでしょ」

最近,毎日,雪さんの病室に来るようになった猫丸が雪さんの顔を見ながら微笑んだ。

「本当に丸ちゃんはお話が上手ね。まるで話に出てくる猫壱さんのように,わたしも少しずつ元気になってきたみたいよ」

 そういって,雪さんはいつものように優しく猫丸を撫でてあげた。こうやって,猫丸の話を聞くのが雪さんの日常である。もう子供をうんでからずっと病にふせっている。その子供も猫丸のお母さんである三毛さんと幼馴染というくらいだから,もうずいぶん長いこと一日のほとんどを病室で過ごしているのだ。そんな雪さんの病室に猫丸がひょっこりと現れたのは,今年初めの雪が降った寒い朝だった。雪さんの一人娘である猫又に連れられてやって来たのだ。

「ほら,母さんの会いたかった三毛さんの子供を連れてきたよ。話し相手にちょうどいいと思うからね。猫丸,母さんが疲れたら,すぐに休ませるんだよ。それじゃぁ,あたしは高座の時間が近づいてきたから,もう行くね」

そう言うと,猫又は猫丸を置いて,出て行ってしまったのだ。それからというもの,毎日,毎日,新しい話を猫丸は雪さんに聞かせてあげた。初めは横になりながら聞いていた雪さんも今では病院の庭まで出歩いて,話を聞けるようなったのだ。不思議なことに,猫丸の話を聞きにくるようになったものたちは皆一様に元気になっていったのだ。

「ねぇ,雪さん。勘八おじさんはいつ帰ってくるのかな。早く帰ってこないかな。おいしいお土産を買ってきてくれるって言ってから」

猫丸はおいしいものに目がないので,気持ちはすっかりお土産に移ってしまった。それでも,雪さんはそんな猫丸の声を聞くだけで,また少し元気になれたようだ。

<つづく>

【猫説 今昔物語】大きなお屋敷をもらう話

今となってはもう昔のことになってしまったので,それが本当のことなのかどうか知っているものはおりません。ここからさほど遠くはなれていないが,もう今では閑散となってしまっている村には,村にそぐわないほど大きな尼寺がある。その尼寺はかつて一人の老婆のお屋敷だったというのは今ではほとんどのものが知らない。

ある日,夫や子供たちに先立たれ,たった一人で小さな畑で自給自足の生活をおくっている老婆がいつものように畑から家に帰る途中,どこからともなく幼児の泣き声が聞こえてくるではないか。老婆は,あたりを見渡してみると,木の洞に三つ四つになるぼろをまとった男の子が泣いているではありませんか。きっとどこかで親とはぐれてしまったのでしょう。それにしても不思議なのは,このあたりではそのくらいの男の子がいるのは見かけたことがないということである。どこでさらわれてきた子なのでしょうか。哀れに思った老婆は家に連れて帰り,体をきれいに洗い,もう今はいない子供の着物を着させてあげました。いずれ親が探しにやってくるに違いない。

それから半年ほど,老婆は一緒に畑に連れていき,行きと帰りに何か手掛かりがないかあちらこちらとさがしてあげましたが,一向にわかりません。子供も老婆になつくけれども,まだ幼いので自らが置かれている状況が理解できていないようでもある。

そんなある日の夜,何人もの立派な成りをした何某の守の従者となるものたちが老婆の家にやってきて,これこれの子を見なかったか,と尋ねるので,よくよく特徴や時期を問うてみれば奥ですでに眠っている子供のことのようである。そこで,従者を奥へ通し,子供を見せると,若,若と呼び,笑っているのか泣いているのかよくわからない表情になり,それからただただ若と呼び続けた。その夜は遅いので,老婆の家に従者は泊まり,朝起きるとその子をともなって出て行ってしまった。

老婆はお礼の言葉などがほしかったわけではないが,半年も暮らした間柄,すっかり孫のように思う気持ちが強くなり,寂しい気持ちでいっぱいだった。この老婆はそれから何年も長生きをし,その子供のことを忘れようとしていたころ,家の前に立派な青年が多くの従者とともにやって来た。

聞けばその青年は若くして何某の守の跡を継ぐこととなり,任地へ向かう途中,家の近くを通った途端に幼いころのことを思い出し,老婆を訪ねることにしたのだ。

青年は幼いころの感謝の気持ちに答えたく,老婆に何かお困りのことはないか,何かほしいものはないかと尋ねても,老婆はいえいえ,いえいえと答えるばかり。そこで青年は,このあたりに四軒分はあろうかという大きなお屋敷をつくり,老婆に与えたそうだ。

見返りを求めない老婆の気持ちと,感謝の気持ちを伝えない青年の心の交流が何とも美しいという話である。老婆はその後も長生きをし,困ったものたちをその大きな屋敷に住まわしたそうだ。そのうわさが国中に広まり,老婆を一度拝みたいというものたちで村は栄えたそうだ。老婆が亡くなると,そのお屋敷はどういういきさつか尼寺となり,今に伝えられている。

ぼくの好きな人

ぼくには好きな人がいる。

その人は決してめげない。弱音を吐かない。悪口を言わない。いつも前向き。

【猫説 今昔物語】猫さんという者

今となってはもう昔のことになってしまったので,それが本当のことなのかどうか知っているものはおりません。

かつて猫次,猫さんという噺家の双子がおりました。兄の猫次はどことなく遊び人風でありながら,しっかりとした男でした。それに対し,弟の猫さんは何とも頼りない,どこへ行くにも猫次と一緒でなければいけない男でした。

そんな猫さんも元は猫参といい,漢字で参といったものでした。こんな話があってからというもの,師匠からさんとひらがなに変えられてしまったということです。

二人が弟子入りしたのは猫楽という若者言葉でいうところの粋で鯔背な創作落語の特異な師匠でした。そんな猫楽があるとき猫さんに近所の和菓子屋まで遣いに出したところ,猫さんが待てど暮らせどかえって来やしません。

もう何刻経つかね,気の長い猫楽ですら少し苛立ってきました。近くに団子と大福を数個買いに行くだけだっていうのにいったいどれだけ時間がかかっているのか。

ちょっと見てきましょう,兄の猫次が見に行くと,何とまだ何も買っていないどころか,店にも入っていないではありませんか。

猫参よ,いったいぜんたいどうしたっていうんだ。お師匠さんがずいぶんお待ちだよ。

それが兄さん,お店にはミイさんしかいないんですよ。ぼくはあんなきれいな方とは一度だって話したことがないんだから,どうしてよいのかわからないんだよ。

猫参はただおろおろとするばかり。仕方ないので猫次がすっとお店に入って,言われた団子と大福より少しだけ多めに買って帰って,事の顛末を猫楽に伝えたところ,ハハハと猫楽は笑うばかり。猫次のいたずらを察した猫楽は余った団子と大福を猫参に持たせて,また和菓子屋に行かせたところ,やっぱりなかなか帰って来やしない。

今度は数刻も待たず猫次を迎えに行かせ,いたずらのお詫びとして余った団子と大福は猫参に与えた。

その次の日,猫楽は猫参を部屋によんで,

猫参や,お前さんはもう少し漢らしくならなければいかん。そこで,しっかりとした漢になるまで,猫さんと名乗りなさい

そういって,それ以来,猫参は猫さんと名を変えたそうな。

これはあたし猫丸の兄弟子の話なので,本当のことでしょう。

 

【猫説 今昔物語】おそば

つい最近知ったばかりで,今も今のお話です。

みなさん,小銭というものをご存知ですか。あれって,本当に便利ですよね。

 

あたしは,物心ついたころから,なじみのお店に入ると,店の大将が好きなものを食べさせてくれるんです。何喰いてぇんだ? なんでもいいから,腹いっぺぇ喰ってけってね。

この前初めて隣町に行って,初めてのお蕎麦屋に行っていつものように出ていこうとすると,待ちな,食い逃げするのか!ってすごい剣幕で店の大将にどなられてしまったんですよ。もうなんのことだかよくわからなくて。

 

すると,猫六師匠のなじみで,その界隈の顔役である虎吉さんがやってきて

おい,どうした。この子はおれの知り合いのかわいい孫なんだが。

店の大将はちょっととまどいながらも,この顛末を話すと,虎吉さんが笑いながら,何やら小銭というものを大将に渡していたんです。

 

どうやら,小銭というものを渡すと怒られずにお蕎麦屋でおいしい蕎麦が食べられるというお話です。