【猫説】今昔物語

猫が織りなす不思議な世界の物語

【猫説 今昔物語】(続)ホトトギス 鳴かぬなら・・・

猫丸が猫六大師匠に尋ねた。
それにしても、どうして信長公はホトトギスなんかを裏切りものにたとえたんですかね。
猫六が答えるには
そりゃ、織田家の家紋は梅だろ。梅に寄ってくるのはウグイス。そんなウグイスに巣食うのがホトトギスってわけだろ。

【猫説 今昔物語】けづくろい

うちの師匠は猫楽といいまして,ひとっところに落ち着くことができないかたでして,いつもその師匠である,つまりあたしの大師匠にあたる猫六に怒られていたそうです。まぁ,今でもそうなんですがね。
猫六はとても身だしなみにも厳しい方で,ちょっとだらしのなく毛づくろいもろくすっぽしない猫楽をよく叱っては,しっかりと毛づくろいさせていました。これはそんな猫楽のお話です。

まだ,猫楽が駆け出しのころ,前座として高座に上がったところ,右耳の後ろの毛がはねていたんです。それを袖で見ていた猫楽が,ずっと陰に隠れながら,猫楽に毛のはねていることを気づかせようと,右耳の後ろの毛づくろいをしていたんです。そんなときに限って,猫楽の噺が長時間にわたるもので,脇で右耳の後ろを毛づくろいし続けた猫六の毛がすっかりはげてしまったそうです。

いや,話はこれだけです。え? オチがないじゃないかって。そりゃそうですよ,初めに言った通り,落ち着きのない猫楽の話なんですから。

【猫説 今昔物語】ホトトギス 鳴かぬなら・・・

今となってはもう昔のことになってしまったので,それが本当のことなのかどうか知っているものはおりません。ただ,ひとついえることといえば,今日も庭でホトトギスが鳴いているということくらいでしょうか。

 

鳴かないからといって,殺されそうになったり,無理矢理に鳴かされそうになったり,ひたすら鳴くまで待たれたり。そんなホトトギスを天下に例えて,信長公,秀吉公,家康公の性格をよく表したなんてことがいわれておりますが,果たして本当でしょうか。

 

ホトトギスをご存知ですか。やつらはほかの渡り鳥よりも少し遅れてやってくるんですよ。どうしてか知ってますか? ウグイスなどが巣をつくって,いよいよ卵を産もうかってときにそっとやってきて,ウグイスの巣に卵を産んでしまいやがるんです。しかも,卵からかえったひな鳥はウグイスのひなを追いやったりしてしまうというだから,なお一層怖いね。でも,ウグイスの親鳥は自分が温めた卵からかえったもんだから,せっせとご飯を与えてどんどん大きく育ててしまうってんだから,わからないものだよね。

 

おっと,閑話休題

 

ホトトギスのことをこうやって知ってみると,ホトトギスって天下のことですかね。天下が思い通りにならなければ殺してしまうのかい。どんな苦労や策をもってしてでも手に入れようとするのかい。手に入るまで待ち続けるのかい。どうにも合点がいかないんだよ。

 

これってもしかしたら,裏切り者のことなんじゃないの。疑いのあるやつを並べて,片っ端から殺していけば裏切り者はいなくなるし,無理やりにでも白状させて裏切り者が誰かはっきりさせてやろうということかもしれないし,鳴き声が違うのだから鳴くのを待てばどいつが裏切り者かわかるってものさ。

 

三公のどなたが親鳥でもいずれやられてしまう運命なのさ。

 

【猫説 今昔物語】一番鶏が鳴いたのに

今となってはずいぶん昔のことだから,話してもよいかもしれない。でも,誰の話なのかわからないように,少し脚色します。

 

あの頃のあたしは,ちょっと近所でも評判の色男で,それはもてたものだよ。猫次さん,今晩うちでおいでよ。猫次の旦那,たまには寄っていかないかい。なんてのは日常さ。

でも,あたしには心に決めた猫がいたんだよ。その子が毛皮がほしいといったら,うんと働いて,お金を貯めて買ったりしたものだよ。その子の名前は白ちゃんとしておこうか。

そんなある日,白ちゃんの両親が旅行に行って,白ちゃんだけがお留守番だというから,こっそり会いに行く計画をたてたのさ。白ちゃんだけといっても,それは家族が白ちゃんだけという意味で,代々白ちゃんの家に仕える執事も家にはいたもんだから,実行には慎重を期す必要があった。

しかし,その家では一番鶏が鳴くと,一時的に門を開放して気の入れ替えをすることがわかったわけ。季節は冬だったし,一番鶏が鳴く頃はまだ暗闇の中。忍び込むにはちょうどよい。

家の近くの茂みにそっと隠れて待つこと,数刻。

寒さで凍えてしまい,このまま一番鶏を待っていては死んでしまうよ。そう思って,思いっきり

コケコッコー! 

と鶏の鳴きまねをしたのさ。すると,どうだろうか。近くの鶏が勘違いしたのか,みな一斉に鳴き出した。これはまさに天恵。

しかし,待てど暮らせど,門が開くことはなかった。あきらめかけたその時,そっと小さく門が開いて,執事がこちらに歩み寄ってきた。どうやら向こうは先刻承知だったようだ。

そこで,執事から渡された手紙には歌が書かれていた。

夜をこめて 鳥の空音は 謀るとも
   よに逢坂の 関は許さじ

【猫説 今昔物語】秀才と天才

今となってはもう昔のことになってしまったので,それが本当のことなのかどうか知っているものはおりません。

あるとき,弟子の猫楽が猫六師匠に尋ねました。

「師匠。秀才と天才はどのようにちがうのでしょうか」

猫六師匠は答えました。

「常に学問などにおいて一番の成績を修めるのが秀才,常に学問などにおいて新たな価値をつくり出すことができるのが天才です」

「それでは,どちらのほうが優れているのでしょうか」

「それは難しい質問ですね。秀才とは相対的に最も優れているけれども,天才とは絶対的な価値をもつものだからです。一番のものが秀才であることは先程いいましたね。一番が秀才であると同時に天才であることは可能です。しかし,百番のものは天才である可能性はあるものの秀才ではありません」

「つまり,両者を比べたときには秀才のほうが常に優れているということでしょうか」

「相対的に優れているものと,絶対的に価値のあるものを比べることはできないのです」

そういうと,猫六師匠は自室に入っていってしまいました。

 

【猫説 今昔物語】はじまり

今となってはもう昔のことになってしまったので,それが本当のことなのかどうか知っているものはおりません。ただそれを後世に伝えていくのがわたしたちの仕事なのです。

これまでいろいろな話を聞いてまいりました。時代も地域もそれぞれです。それを整理してお話してもよいのですが,それでは臨場感もなくなってしまうかもしれません。思い出すままに,お話させていただいたほうがきっと聞き手といたしましても印象に残りやすいと思います。

隠居前の最後の仕事として,そっとここに書き残しておきますので,いつかどなたかの目に留まりますことを願うばかりです。