【猫説】今昔物語

猫が織りなす不思議な世界の物語

【猫説 今昔物語】一番鶏が鳴いたのに

今となってはずいぶん昔のことだから,話してもよいかもしれない。でも,誰の話なのかわからないように,少し脚色します。

 

あの頃のあたしは,ちょっと近所でも評判の色男で,それはもてたものだよ。猫次さん,今晩うちでおいでよ。猫次の旦那,たまには寄っていかないかい。なんてのは日常さ。

でも,あたしには心に決めた猫がいたんだよ。その子が毛皮がほしいといったら,うんと働いて,お金を貯めて買ったりしたものだよ。その子の名前は白ちゃんとしておこうか。

そんなある日,白ちゃんの両親が旅行に行って,白ちゃんだけがお留守番だというから,こっそり会いに行く計画をたてたのさ。白ちゃんだけといっても,それは家族が白ちゃんだけという意味で,代々白ちゃんの家に仕える執事も家にはいたもんだから,実行には慎重を期す必要があった。

しかし,その家では一番鶏が鳴くと,一時的に門を開放して気の入れ替えをすることがわかったわけ。季節は冬だったし,一番鶏が鳴く頃はまだ暗闇の中。忍び込むにはちょうどよい。

家の近くの茂みにそっと隠れて待つこと,数刻。

寒さで凍えてしまい,このまま一番鶏を待っていては死んでしまうよ。そう思って,思いっきり

コケコッコー! 

と鶏の鳴きまねをしたのさ。すると,どうだろうか。近くの鶏が勘違いしたのか,みな一斉に鳴き出した。これはまさに天恵。

しかし,待てど暮らせど,門が開くことはなかった。あきらめかけたその時,そっと小さく門が開いて,執事がこちらに歩み寄ってきた。どうやら向こうは先刻承知だったようだ。

そこで,執事から渡された手紙には歌が書かれていた。

夜をこめて 鳥の空音は 謀るとも
   よに逢坂の 関は許さじ