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【猫説】今昔物語

猫が織りなす不思議な世界の物語

【猫説 今昔物語】猫さんという者

今となってはもう昔のことになってしまったので,それが本当のことなのかどうか知っているものはおりません。

かつて猫次,猫さんという噺家の双子がおりました。兄の猫次はどことなく遊び人風でありながら,しっかりとした男でした。それに対し,弟の猫さんは何とも頼りない,どこへ行くにも猫次と一緒でなければいけない男でした。

そんな猫さんも元は猫参といい,漢字で参といったものでした。こんな話があってからというもの,師匠からさんとひらがなに変えられてしまったということです。

二人が弟子入りしたのは猫楽という若者言葉でいうところの粋で鯔背な創作落語の特異な師匠でした。そんな猫楽があるとき猫さんに近所の和菓子屋まで遣いに出したところ,猫さんが待てど暮らせどかえって来やしません。

もう何刻経つかね,気の長い猫楽ですら少し苛立ってきました。近くに団子と大福を数個買いに行くだけだっていうのにいったいどれだけ時間がかかっているのか。

ちょっと見てきましょう,兄の猫次が見に行くと,何とまだ何も買っていないどころか,店にも入っていないではありませんか。

猫参よ,いったいぜんたいどうしたっていうんだ。お師匠さんがずいぶんお待ちだよ。

それが兄さん,お店にはミイさんしかいないんですよ。ぼくはあんなきれいな方とは一度だって話したことがないんだから,どうしてよいのかわからないんだよ。

猫参はただおろおろとするばかり。仕方ないので猫次がすっとお店に入って,言われた団子と大福より少しだけ多めに買って帰って,事の顛末を猫楽に伝えたところ,ハハハと猫楽は笑うばかり。猫次のいたずらを察した猫楽は余った団子と大福を猫参に持たせて,また和菓子屋に行かせたところ,やっぱりなかなか帰って来やしない。

今度は数刻も待たず猫次を迎えに行かせ,いたずらのお詫びとして余った団子と大福は猫参に与えた。

その次の日,猫楽は猫参を部屋によんで,

猫参や,お前さんはもう少し漢らしくならなければいかん。そこで,しっかりとした漢になるまで,猫さんと名乗りなさい

そういって,それ以来,猫参は猫さんと名を変えたそうな。

これはあたし猫丸の兄弟子の話なので,本当のことでしょう。