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【猫説】今昔物語

猫が織りなす不思議な世界の物語

【猫説 今昔物語】大きなお屋敷をもらう話

今となってはもう昔のことになってしまったので,それが本当のことなのかどうか知っているものはおりません。ここからさほど遠くはなれていないが,もう今では閑散となってしまっている村には,村にそぐわないほど大きな尼寺がある。その尼寺はかつて一人の老婆のお屋敷だったというのは今ではほとんどのものが知らない。

ある日,夫や子供たちに先立たれ,たった一人で小さな畑で自給自足の生活をおくっている老婆がいつものように畑から家に帰る途中,どこからともなく幼児の泣き声が聞こえてくるではないか。老婆は,あたりを見渡してみると,木の洞に三つ四つになるぼろをまとった男の子が泣いているではありませんか。きっとどこかで親とはぐれてしまったのでしょう。それにしても不思議なのは,このあたりではそのくらいの男の子がいるのは見かけたことがないということである。どこでさらわれてきた子なのでしょうか。哀れに思った老婆は家に連れて帰り,体をきれいに洗い,もう今はいない子供の着物を着させてあげました。いずれ親が探しにやってくるに違いない。

それから半年ほど,老婆は一緒に畑に連れていき,行きと帰りに何か手掛かりがないかあちらこちらとさがしてあげましたが,一向にわかりません。子供も老婆になつくけれども,まだ幼いので自らが置かれている状況が理解できていないようでもある。

そんなある日の夜,何人もの立派な成りをした何某の守の従者となるものたちが老婆の家にやってきて,これこれの子を見なかったか,と尋ねるので,よくよく特徴や時期を問うてみれば奥ですでに眠っている子供のことのようである。そこで,従者を奥へ通し,子供を見せると,若,若と呼び,笑っているのか泣いているのかよくわからない表情になり,それからただただ若と呼び続けた。その夜は遅いので,老婆の家に従者は泊まり,朝起きるとその子をともなって出て行ってしまった。

老婆はお礼の言葉などがほしかったわけではないが,半年も暮らした間柄,すっかり孫のように思う気持ちが強くなり,寂しい気持ちでいっぱいだった。この老婆はそれから何年も長生きをし,その子供のことを忘れようとしていたころ,家の前に立派な青年が多くの従者とともにやって来た。

聞けばその青年は若くして何某の守の跡を継ぐこととなり,任地へ向かう途中,家の近くを通った途端に幼いころのことを思い出し,老婆を訪ねることにしたのだ。

青年は幼いころの感謝の気持ちに答えたく,老婆に何かお困りのことはないか,何かほしいものはないかと尋ねても,老婆はいえいえ,いえいえと答えるばかり。そこで青年は,このあたりに四軒分はあろうかという大きなお屋敷をつくり,老婆に与えたそうだ。

見返りを求めない老婆の気持ちと,感謝の気持ちを伝えない青年の心の交流が何とも美しいという話である。老婆はその後も長生きをし,困ったものたちをその大きな屋敷に住まわしたそうだ。そのうわさが国中に広まり,老婆を一度拝みたいというものたちで村は栄えたそうだ。老婆が亡くなると,そのお屋敷はどういういきさつか尼寺となり,今に伝えられている。