【猫説】今昔物語

猫が織りなす不思議な世界の物語

【猫説 今昔物語】まず茶虎より始めよ

今となってはもう昔のことになってしまったので,それが本当のことなのかどうか知っているものはおりません。しかも,それが遠くの国のことであるのだから,なおさらです。

かつて,黒猫の国と白猫の国というとても仲の悪い国があったそうです。商業の盛んな黒猫の国は,その財力にものをいわせて,いつも白猫の国をいじめていました。いつもいつもいじめられていた白猫の国の王はどうにかして仕返しできないものか考えておりました。

「そうだ。優秀な武将がいれば,きっと黒猫たちをこらしめてくれるにちがいない。だれか,ここに五百金あるから,優秀な武将を探してまいれ」

しかし,待てど暮らせど優秀な武将は現れませんでした。黒猫の国は待っていてはくれません。どんどんいじめがひどくなってきて,とうとう白猫の国の面積はほとんどなくなってしまったのです。

そんなある日のこと,王のもとに,一匹の茶虎がやってきました。茶虎が言うには,かつて黒猫の国に自分の故郷が占領されてしまったので仕返しがしたいのだが,仕返しができるのは白猫の国しかない,とのこと。そんな茶虎に白猫の王は優しく語りかけました。

「茶虎よ。そなたの思いはよくわかる。しかし,この状況を見なさい。我々にはそのような力はもう残ってはいないのだ」

すると,茶虎がすっと背筋を伸ばし,話を始めました。

「あるところに新鮮なお魚を手に入れたくて仕方のない大金持ちがおりました。大金持ちは,新鮮なお魚を持ってきたものには千金をくれてやろう。しかし,新鮮ではないお魚を持ってきたものには鉄拳をくれてやろう。皆恐れて,新鮮なお魚を持っているものでも,持っていこうとはしませんでした。その噂を聞きつけたある猫が一計を案じ,皆が持っていくことができない間にすっかり悪くなってしまったお魚をもって,大金持ちのところに行きました。大金持ちは悪いお魚を持ってきた猫に鉄拳をくらわそうと,こぶしを振り上げたとき,猫はこういいました。この悪いお魚を五百金で買いなさい。そうれば,きっとあなたのもとには新鮮なお魚が毎日のようにたくさんやってきますよ,と。あまりにも自信満々に言われるものだから,大金持ちは試しに五百金でその悪いお魚を買ってみました。すると,どうでしょう。悪い魚でも五百金で買ってくれるなら,とれたてならきっと鉄拳ではなく千金くれるはずだということで,方々から新鮮なお魚が集まったそうです。

つまりは,まず,この茶虎を師と敬って五百金で雇ってください。そうすれば,黒猫の国にいじめられていた様々な国の優秀な武将や政治家たちがこの白猫の国に集まってくるでしょう。まず茶虎より始めよ,です」

言われた通り,白猫の王は茶虎を師と仰ぎ,黒猫の国に仕返しするための方策を考えました。しかし,いつまで経っても,白猫の国には優秀なものたちは集まってきませんでした。茶虎のようなものの話に騙されてしまうような王なのだから,きっと我々が行ったところで,どうにもなるまいと言われているそうです。

これはきっと本当の話なのだろう。いつの世にも口の上手なやつがいるものだから,どんなにつらい状況でもだまされないように気をしっかり持たないといけないということです。